FXはリスクを冒すことなしに確定収益は得られない
FXの「デリバティブの価格理論]というと難しい印象を受けがちですが、“無裁定”とは実はとっても簡単なことです。
FX市場ではファンダメンタル(経済的な基礎的条件)を反映したしかるべき価格が形成されていることを前提に、投資家は売りと買いとを同時に組み合わせてリスクを冒すことなしに確定収益は得られないです。
複雑な印象をもつ金融工学の世界も、実はこういったシンプルな考え方が根底にあります。
為替の先渡(あるいは直先スプレッド)は、資金の運用・調達での無裁定に基づき、以下のように理論価格が決定します。
FX市場環境のもと、簡単な資金運用を題材に為替先渡の理論価格を求めてみましょう。
現在ある投資家がいたとして、投資資金はちょうど1米ドルと等価の90.00円とします。それをこれから1年間運用します。ただし彼は、絶対に為替リスクをとりたくない。FXの為替レートが期間中いかに変動しようと、満期には必ず一定額の円貨を受け取りたい・・・そのニーズに合った運用方法は、次の①,②の2通りです。
①円のまま運用
1つ目の運用方法は、単純に90.00円をそのまま1年物の定期預金や債券に投じることです。この場合、円の利率は0.5%ですから、1年後の運用資金の満期価値(元利合計)は、 90.00×(1+0.005×1)円となります。
純粋な円での資金運用であるから、もちろん為替リスクはなく、彼は満期にその円貨額を必ず受領できます。
②米ドルで運用かつ為替ヘッジ
もう1つの方法は、現在90.00円を1米ドルに両替のうえで、1年物の外貨預金や外国債券での資金運用です。ただし為替リスクをとらないために運用開始と同時に、彼は先渡1年物で米ドル売り円買いを行っておきます。
米ドルの利率は1.5%ですから、1年後の運用資金の満期価値(米ドルでの元利合計)は、 1×(1+0.015×1)米ドルです。運用開始時に締結していた先渡取引のレートを「1米ドル=F円」とする(このFが具体的にいくらかをこれから求める)。
彼は1年後に米ドルでの満期金を、1米ドルにつきF円で円転できます。よって,円での1年後の満期価値は、 1×(1+0.015×1)×F 円となります。
ここで先渡取引の元本は、運用資金の元本(1米ドル)でなく、元利合計(1×(1+0.015×1)米ドル)に合わせて締結しています。よって円での満期価値は上記のようになることを補足しておきます。
以上2通りの運用について、1年後の円での満期価値は、今後の為替相場によらず現時点であらかじめ確定しています。①,②いずれの手法も為替リスクを全くとっていないです。
投資の初歩である“とったリスクに見合ったリターンが追求できる”の考え方に基づくと、共に同じゼロの為替リスクですから運用結果も同じであってしかるべき。すなわち①,②共に円での満期価値は互いに等しいです。
よって、為替先渡1年物の理論価格Fは、次の方程式を解き
1×(1+0.015×1)×F=90.00×(1+0.005×1)
1+0.005×1
∴F=90.00×1+0.015×1 ……①
=89.11(円)
が得られます。
併せて直先スプレッドの理論価格は、△89銭(=89.11-90.00円)です。
上の①の式で、分数の分子の円金利(0.005)よりも分母の米ドル金利(0.015)の方が高いです。直物(90.00円)に掛けて先渡理論価格を算定する分数全体が1よりも小さいため、先渡理論価格(89.11円)は直物よりも円高水準となります。FXビクトリーメソッド【アドバンス】Victory Method-Advanceは役立ちます。
実際の銀行と顧客との間での先渡取引および銀行間の直先取引は、このようにして算定される理論価格の水準をめどに市場相場が形成されています。